トリアージとは?命を分ける4色の意味と救急現場の判定基準
大規模災害のニュース映像や救急外来の受付で目にする「トリアージ」という言葉。多くの傷病者が同時に発生した際、限られた医療資源の中で「誰から優先して治療すべきか」を選別・判断する医療システムです。緊迫した現場において、医師や看護師はどのような基準で患者の状態を見極め、命の順番を決定しているのでしょうか。
現場では「赤・黄・緑・黒」に色分けされたトリアージタグが用いられ、わずか数十秒の観察で迅速な判定が下されます。本稿では、災害医療や救急外来の最前線で行われているトリアージの仕組み、判定プロトコルの代表格である「START法」の具体的な手順、そして医療現場が直面する倫理的葛藤の深層まで、余すところなく解説します。
📌 【この記事の重要ポイントまとめ】
- 要点1:トリアージは「最大多数の最大救命」を目的に、限られた医療資源を最も効果的に配分するための緊急度判定システム。
- 要点2:判定結果は「赤(最優先)」「黄(待機可能)」「緑(軽症)」「黒(不処置・死亡)」の4色タグで可視化され、現場の共通言語として機能する。
- 要点3:救急外来における「院内トリアージ」の導入が進み、来院順ではなく重症度に応じた診療体制の確立と受診側の正しい理解が求められている。
【救命の最前線】トリアージとは何か?命の優先順位を決める基本構造
トリアージ(Triage)の語源は、フランス語の「trier(選別する、より分ける)」に由来します。ナポレオン戦争時代に軍医ドミニク・ジャン・ラレーが、戦場で負傷した兵士を身分に関係なく重症度に応じて治療したことが近代トリアージの起源とされています。
現代医療におけるトリアージの根本原則は「最大多数の傷病者に対して最善の医療を提供し、救命可能な命を1人でも多く救うこと」です。平常時の病院であれば「来院順」や「受付順」に診察を行うのが通例ですが、医療の需要が供給能力を圧倒的に超える非常事態では、その平時ルールが崩壊します。
トリアージが運用される場面は、大きく分けて以下の2つが存在します。
- 災害医療トリアージ:地震、列車事故、大規模火災、多数傷病者事故など、医療リソースが極度に逼迫した現場で行われる絶対的選別。
- 救急外来(ER)トリアージ:夜間・休日の救急病院などで、重篤な患者を見落とさず最優先で医師につなぐための院内緊急度判定。
いずれの現場においても、トリアージは単なる「順位付け」ではなく、刻一刻と変化する患者のバイタルサインを捉え続ける動的なプロセスです。

【一覧表で解説】トリアージ4色の意味とトリアージタグの判定基準
災害現場や多数傷病者事故の現場で用いられるのが「トリアージタグ」と呼ばれる特殊な識別票です。ゴムバンド付きの厚紙で作られており、傷病者の右手首(困難な場合は左手首、足首の順)に取り付けられます。
タグの最下部には「赤・黄・緑・黒」の4色のミシン目が施されており、判定者は該当する区分より下の色を切り取ることで、現在の緊急度を一目で識別できるようにします。
| カテゴリー(色) | 分類名と患者の状態 | 処置・搬送の優先順位 | 現場での具体的な傷病例 |
|---|---|---|---|
| 赤(最優先治療群) Category I | 生命の危機が切迫しており、直ちに救命処置を行えば救命可能な状態 | 第1優先(直ちに処置・搬送) | 気道閉塞、活動性大量出血、緊張性気胸、重度ショック状態 |
| 黄(待機的治療群) Category II | 早期の治療が必要だが、数時間の待機によっても直ちに生命危機に陥らない状態 | 第2優先(赤の後に処置・搬送) | 大腿骨骨折、広範囲でない中等度熱傷、バイタルが安定している多発外傷 |
| 緑(保留群・軽症) Category III | 歩行可能であり、専門医の治療を必要としない、または待機が十分可能な状態 | 第3優先(自力避難・後回し) | 軽度の擦過傷、打撲、バイタルサインに異常のない軽微な創傷 |
| 黒(不処置群・死亡) Category 0 | 既に死亡しているか、現在の医療リソースでは救命の見込みが極めて低い状態 | 優先順位なし(治療・搬送を行わない) | 心肺停止、気道確保後も無呼吸、脳脱を伴う頭部開放創、全身炭化 |
現場指揮所や救護所では、このカラーリングに基づき、赤エリア、黄エリア、緑エリアといったスペースのゾーニングが行われ、限られた医療チームと救急車が赤タグの患者へと最速で投入されます。
【現場の手順】START法とPAT法|短時間で下されるトリアージ基準の全貌
大災害の現場では、1人の判定者が1人の傷病者にかけられる時間は「概ね30秒から1分以内」と定められています。主観や迷いを排除し、誰が判定しても同じ結果を導き出すために設計された代表的なアルゴリズムが「START法(Simple Triage and Rapid Treatment)」です。
START法の判定フロー(成人向けアルゴリズム)
START法は、身体に触れる前の呼びかけから始まり、生理学的徴候を機械的にチェックしていく厳格なプロトコルです。
- 歩行チェック:「歩ける方はこちらへ移動してください」と呼びかけ、自力で歩行できる傷病者をすべて「緑(Category III)」として別エリアへ誘導。
- 呼吸の有無:
- 自発呼吸がない場合、用手的に気道確保を実施。
- 気道確保しても呼吸がなければ「黒(Category 0)」と判定。
- 気道確保によって呼吸が再開すれば直ちに「赤(Category I)」。
- 呼吸数:自発呼吸がある場合、1分間の呼吸数を測定。
- 呼吸数が「毎分9回以下」または「毎分30回以上」の異常値なら「赤(Category I)」。
- 「毎分10〜29回」の正常範囲内であれば次の循環チェックへ。
- 循環状態(橈骨動脈の触知または毛細血管再充満時間/CRT):
- 手首の脈(橈骨動脈)が触れない、または爪床を圧迫した後の赤みが戻るのに2秒以上かかる場合は循環不全とみなし「赤(Category I)」。
- 脈が触れ、CRTが2秒未満であれば次の意識チェックへ。
- 意識レベル(簡単な従命反応):
- 「手を握ってください」などの簡単な指示に従えない場合は「赤(Category I)」。
- 指示に従える場合は「黄(Category II)」と判定。
小児に特化した評価法「JumpSTART法」と「PAT法」
生理機能が生涯を通じて未熟な小児(8歳未満または体重推定45kg未満)に対しては、成人のSTART法をそのまま適用できません。小児は呼吸数が元々多く、無呼吸であっても脈拍が残っていれば自発呼吸が回復する可能性があるためです。
小児トリアージでは、気道確保後に自発呼吸がない場合でも、脈拍があれば「5回の人工呼吸」を試みる「JumpSTART法」が用いられます。
さらに、外来診療や初期評価においては、機器を使わずに第一印象を評価するPAT法(Pediatric Assessment Triangle)が広く普及しています。「外観(Appearance)」「呼吸仕事量(Work of breathing)」「皮膚循環(Circulation to skin)」の3要素を視診・聴診だけで評価し、直ちに赤トリアージ相当の集中治療が必要かどうかを数十秒で見抜きます。

【救急外来のリアル】「待たされる理由」と院内トリアージナースの重責
「救急外来に来たのに、後から来た人が先に診察室へ呼ばれた」「3時間も待合室で放置された」という不満や疑問は、ネット上や知恵袋などでも頻繁に見受けられます。しかし、これこそが病院内で正常にトリアージが機能している証拠です。
院内トリアージ実施料とJTASの導入
厚生労働省の診療報酬制度には「院内トリアージ実施料」が規定されています。これは夜間や休日の救急外来において、専任の看護師が患者の緊急度を判定し、早期治療につなげる体制を評価するものです。
国内の多くの救急医療機関では、カナダのCTASを日本向けに改変した「JTAS(日本緊急度判定支援システム)」が採用されています。JTASでは患者の主訴とバイタルサインから、緊急度を「レベル1(蘇生)」から「レベル5(非緊急)」までの5段階に分類します。
- レベル1(蘇生):直ちに医師による治療開始(心停止、意識障害)
- レベル2(緊急):15分以内に医師が診察(重篤な胸痛、脳卒中疑い)
- レベル3(準緊急):30分以内に診察(激しい腹痛、コントロール可能な喘息発作)
- レベル4(低緊急):60分以内を目安に診察(軽度の脱水、軽微な外傷)
- レベル5(非緊急):120分以内を目安(数日前からの慢性症状、処方希望)
最前線に立つ「トリアージナース」のスキル
救急外来の受付で患者の状態を見極めるのは、専門教育を受けたトリアージナース(院内トリアージ認定看護師など)です。彼らは問診や体温・血圧測定だけでなく、待合室全体の患者の顔色、呼吸の荒さ、座り方、痛がり方の変化を常に監視しています。
トリアージは一度判定して終わりではありません。待機中に容態が急変する「オーバートリアージ」「アンダートリアージ」を防ぐため、定期的な再評価(リトリアージ)が不可欠です。歩いて来院した患者が待合室で急変した場合、即座にレベル1へ引き上げられ、診察室へ運ばれます。
極限状態の倫理的問題|黒タグの宣告と医療従事者が背負う葛藤
トリアージの現場において、最も過酷で議論を呼び続けているのが「黒タグ(Category 0)」の判定です。黒タグは、医学的な死亡確認がなされた遺体だけでなく、「現在のリソースでは救命の見込みが極めて低く、処置を差し控える傷病者」にも付与されます。
医療倫理の衝突:義務論と功利主義
平時の医療倫理は「目の前の一人の患者のために全力を尽くす(義務論)」に基づいています。医師はどんなに重篤な患者であっても、命がある限り心肺蘇生や高度な外科手術を試みます。
しかし、数十人から数百人の重症者が一度に押し寄せる災害現場で1人の救命困難な患者に医師3人と輸血製剤のすべてを費やせば、本来なら救えたはずの「赤タグの患者」が5人死亡することになります。トリアージとは、この「最大多数の最大救命という功利主義」を強制される極限状態の判断システムです。
判定者が背負う心理的トラウマと支援
過去の大規模災害や事故現場において、黒タグを付けざるを得なかった医師や看護師の手記には、深い苦悶と自責の念が克明に綴られています。「息はあるのに、資器材が足りないために黒タグを付けた」「家族から『まだ息をしているのに見捨てるのか』と責められた」という体験は、医療従事者の心に深刻なPTSD(心的外傷後ストレス障害)やモラル・インジュリー(道徳的損傷)を残します。
2026年現在の災害医療体制では、トリアージ実施者に対するメンタルヘルスケアの制度化や、AIによる客観的判定支援システムの導入検討が進められています。感情を挟まずに客観的なアルゴリズム(START法など)に則って判断することは、現場の医療従事者を「命を選別した」という個人的な罪悪感から保護するための防壁でもあるのです。

【トリアージとは】に関するよくある質問(FAQ)
Q1:トリアージタグで「黒」と判定されたら、完全に放置されるのですか?
A1:完全に見捨てるわけではありません。心肺停止や救命困難と判定された場合、他の赤タグ患者の処置が最優先されるため積極的な蘇生処置は行われませんが、苦痛を和らげる緩和的処置(鎮痛薬投与や保温)や、家族への説明・尊厳を保つ対応がリソースの許す限り行われます。また、周囲の赤タグ患者の処置が完了し医療リソースに余裕が生まれた場合には、再度状況の評価が行われます。
Q2:救急車で病院へ行けば、トリアージに関係なく優先して診てもらえますか?
A2:いいえ、救急車で来院しても優先されるとは限りません。救急隊員からの申し送りと病院到着時のバイタルサイン判定に基づき、院内トリアージが実施されます。自家用車や徒歩で来院した患者であっても心筋梗塞や重度呼吸不全が疑われれば最優先され、救急車で運ばれた患者でも軽症であれば待合室で待機を指示されることがあります。
Q3:トリアージ判定が途中で変わることはありますか?
A3:頻繁にあります。これを「リトリアージ(再評価)」と呼びます。最初は軽症(緑)と判定された傷病者でも、体内の内出血によって急激に血圧が低下し赤タグに変更されるケースや、逆に治療や止血によって状態が安定し黄タグへ移行するケースがあります。トリアージタグには、変更履歴を記録できる欄が設けられています。
Q4:明細書にある「院内トリアージ実施料」とは何ですか?なぜ支払う必要があるのですか?
A4:夜間・休日・深夜などに救急外来を受診した際、専任の医師や看護師が患者の緊急度を専門的に判定したことに対する診療報酬上の公的評価です。重症患者を迅速に救命し、待機中の患者の安全を常時モニタリングするための医療体制維持費用として、健康保険の適用範囲内で一部負担金が発生します。
まとめ:命を守るシステムへの理解と平時からの備え
トリアージは、過酷な極限状況において「1人でも多くの命を救う」ために人類が編み出した英知であり、救急医療の屋台骨です。赤・黄・緑・黒の4色に込められた意味やSTART法のプロトコルは、医療従事者だけでなく、私たち市民にとっても知っておくべき重要な知識です。
救急外来での待ち時間は、決して医療者の怠慢ではなく、裏で繰り広げられている一刻を争う救命活動の結果です。医療の限界とトリアージの本質を正しく理解し、急病時の適切な受診行動や災害への備えを進めることが、社会全体の命を救う力につながります。 (出典: トリアージ と は(Yahoo!ニュース))